夫婦同姓が義務付けられている国は世界中で日本だけ?

夫婦別姓はあきらめなきゃ、なんてない。 - 井田 奈穂 | LIFULL STORIES

それまでにも疑問を感じてきた夫婦同姓ですが、大量の名義変更に走り回っていた頃、法律によって強制されるのは世界中で日本だけという事実を知って驚愕しました。

について疑問に思ったので調べたこと・考えたことのメモ。

世界中で日本だけ

試験やクイズの正誤問題で「すべて〜である」「~だけ」のように強い制約がついている場合、たいてい答えは×になる。というのは、「すべて〜である」が○であるためにはすべての事例を調べそれが正しいことを確認しなければならないためだ。これは時に困難(または不可能)である。いっぽう×であるためには反例が一つ見つかれば十分なので、情報の裏取り作業が容易だ。

「夫婦同姓が義務付けられている国は世界中で日本だけ」という命題に対しては、もしこれが「先進国の中では日本だけ」なら別に違和感はなかったのだが、第一感として「さすがに他にもいくつかあるのでは?ちゃんと全部調べたの?」と感じた。

「世界中で日本だけ」の根拠

「夫婦同姓が義務付けられている国は世界中で日本だけ」と言われる根拠は

夫婦同姓は日本だけ? 主流は選択型、原則別姓の国も:朝日新聞デジタル

一方、政府は最高裁判決に先立つ15年9月、ある答弁書閣議決定していました。結婚すると、夫婦が同姓を名乗るよう法律で義務づけている国があるかどうかという問いに対し、「現在把握している限りでは、我が国のほかには承知していない」というものです。

と思われる。政府・官僚が調べた範囲では、反例が見つからなかったらしい。ただ、この時点では私はまだ「反例の一つや二つは結構すぐ見つかるんじゃないか」と思っていた。海外ニュースで、レイプされた女性側が逆に死刑になるような、わけのわからない男女差別が行われている国の話を聞く。そういう国で夫婦別姓のような女性の権利が認められているとは思えなかった。

反例探し

海外の夫婦別姓状況

に海外の夫婦別姓状況がまとめられている。量が多いのでひとまずアジア・中東の10か国を見ていくことにする。

いつの情報か

このページにある情報がどれくらい最新情報を反映しているかはわからない。はてなブックマークのコメントには「2000年より前の資料」とある。ただしタイの備考に2003年以降のことが書いてある。また韓国の※に「韓国では同姓同本禁婚制度を廃止する家族法改正の動きがあります。近いうちに法改正が実現しそうです。」とあり、家族法が実際に改正されたのは2005年。

タイの例

1.自己の名+夫あるいは妻の姓

とあり、最初これは今の日本と同じ仕組みで、さっそく反例が見つかったかと思った。しかし備考を見ると

2003年の憲法裁判所判例以降、婚姻した女性が姓の変更をする義務はないものと解釈されている。どちらを選択すべきかについては、議論が続いている(参考:Thai Law Online)。

とあり、誤解だったようだ。参考リンク先には

Since a 2003 ruling by a constitutional court, Thai women no longer have the obligation to adopt their husbands’ surnames after marriage. Instead, this has become a personal question and whether to change the surname or not can still be a matter of great debate for couples.

とあり、現行日本と同じではなく、選択的夫婦別姓であるようだ。

サウジアラビアの例

1.自己の名+父の名+祖父の名+父の姓

を見たとき、選択肢が一つしかなく、これは夫婦同姓が日本以外に存在することの反例だと思った。しかし備考に

このほかに曾祖父の名、高祖父の名も付け足すことができる。婚姻によって姓が変わることはない。婚外子も実父の姓を名乗る。

のようにあり、よくわからない。ただ「婚姻によって姓が変わることはない」とはっきり書いてあるので、夫婦同姓の強制ではないのだろう。

フィリピンの例

1.自己の姓+自己の名+夫の姓
2.自己の名+夫の姓
3.ミセス+夫の名+夫の姓

婚姻をした女は、1〜3に掲げる事柄を行うことができる。

これは自己の姓は変わらないものの、夫の姓が必ず付くことになり、名前の変更は必ずされると解釈できる。さらに、もし夫側の名前に妻の姓がつかないのなら明確な男女差別だ。

夫婦別姓はあきらめなきゃ、なんてない。 - 井田 奈穂 | LIFULL STORIES

なんで名字を変えたくないのかと聞かれるたび、「生まれ持った自分の名前だから」という他、答えがないという井田さん。

という人にとってこれが許容できるとは思われない。ただ、フィリピンの事情が今も変わらずこうなのかはわからない。

結論

「夫婦同姓が義務付けられている国は世界中で日本だけ」の明確な反例は見つからなかったが、フィリピンのように男女平等の観点からは日本よりも状況が悪いかもしれないと思われる例があった。

いずれにしても「夫婦同姓が義務付けられている国は世界中で日本だけ」と断言するには根拠不十分と思われるため、「夫婦同姓が義務付けられている国は世界中で日本だけとされる」「~といわれている」くらいにしておくのが妥当だろう。